本間宗究(本間裕)のコラム

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2022.5.26

小さいこともいいことだ

1968年に発表され、一世を風靡した「山本直純氏のCMソング」は、「歌は世につれ、世は歌につれ」という言葉を代表するような歌詞だったものと考えているが、実際のところ、「大きいことはいいことだ」という言葉は、当時の「規模の経済性」を象徴していたようにも感じられるのである。つまり、「鉄鋼業」や「石油化学産業」などにおいて、「規模の増大に伴い、コストが減少し、利益率が上昇するスケールメリット」が発生していたことも見て取れるのである。

そして、その後は、「1971年のニクソンショック」から始まった「世界的なマネーの大膨張」により、「規模の経済性」は、「実体経済」から「マネー経済」へと移行していったものの、現在では、反対に、「小さいこともいいことだ」、あるいは、「大きいことにはリスクが伴う」というような状況となっているものと感じられるのである。つまり、「規模」が大きくなったものの、「売り上げ」が減少し、その結果として、増大した「コスト(費用)」により、「赤字に陥る可能性」が危惧される企業や組織が増えてきた状況のことである。

より具体的には、「成長が止まった大企業」や「財政赤字に悩まされる国家財政」などの場合には、「売り上げや税収」よりも、「費用や歳出」の方が、より大きな金額となり、その結果として、「負債の増加」が止まらない状況も想定されるのである。そして、この点については、「国家の規模」にも応用ができるものと考えているが、実際には、「食料価格などが上昇しているときに、巨大な人口を有する国家が、不利な状態に陥る可能性」である。

つまり、「産業革命以来の約200年間」については、「スケールメリット」が働いていたものの、現在では、この動きが逆流を始めている可能性も想定されるのである。具体的には、「エンゲル係数の増加」などのように、「収入に比べて、食料などの生活必需品に使う金額の増加」が想定されるとともに、「この動きが、国家全体の統制力に悪影響を与える可能性」も考えられるのである。

しかも、今回は、「大量に創造されたデジタル通貨が、わずかな期間のうちに、紙幣に変換され、実物資産へ流入を始める可能性」も予想されるために、現時点で必要なことは、「時代遅れの考え」とも言える「大きいことはいいことだ」を忘れることだと感じている。つまり、これからは、「小さなこともいいことだ」という、柔軟な考えのもとに、未曽有の規模での金融大混乱を乗り切る必要性があるものと考えているが、この点に関して、残された時間は、ほぼ数か月という状況となっているものと感じている。