本間宗究(本間裕)のコラム

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2024.3.19

金融システムのライフサイクル

経済学者の「ケインズ」が指摘したとおりに、「通貨制度の寿命は約50年である」と理解しているが、この問題を理解するうえで難しかった点は、「通貨制度や金融システムが、それぞれ、独自の特徴を持っていた状況」のようにも感じている。つまり、「1971年のニクソンショック」から始まった「現在の金融システム」、すなわち、「信用本位制と呼ぶべき通貨制度」については、その前の「1913年のFRB創設から始まった米国の金本位制」と同様に、「誕生から崩壊までに、まったく違った独自のパターンが存在していた状況」だったことも見て取れるのである。

具体的には、「実体経済の成長」とともに「マネーの膨張」が始まったという共通点がありながらも、「1913年から1971年までの米国金本位制」については、「金貨本位制が金地金(じがね)本位制、そして、金為替本位制への変化」という状況だったのである。つまり、実体経済の成長とともに、より多くのマネーが必要とされ、その結果として、金本位制そのものが変化したわけだが、最後の段階では、「アメリカが大量の軍事費をベトナムで浪費した結果として、米国政府の信用が喪失した」という展開となったのである。

別の言葉では、前半の「秩序の形成期」では、「実体経済の成長に伴う民間資金の増加」が見られるものの、後半の「秩序の崩壊期」では、「政府の信用失墜により、民間資金の逃避が発生した状況」だったものと思われるのである。そして、この点を、「1971年から現在までの状況」に当てはめると、最初は、「民間企業や個人、そして、民間金融機関のバランスシート大膨張」が、「一次産品や株式、あるいは、土地やデリバティブのバブルを発生させた」という展開だったことも見て取れるのである。

しかし、「2008年前後のGFC (世界的な金融大混乱)」の前後からは、 「デリバティブの大膨張に伴って創造された大量のデジタル通貨が、さまざまなバブルを発生させながら、急激に、国債に吸い上げられた展開」だったものと考えられるのである。別の言葉では、「デリバティブの崩壊」を隠ぺいしようとした思惑が、結果として、「何でもバブル」を発生させたものの、この過程で起こった変化は、「リフレーション政策」という「民間資金の借り入れによる中央銀行のバランスシート大膨張」だったのである。

そして、現在では、「債務の貨幣化」を意味する「財政ファイナンス」が実施されようとしており、このことは、「金融システムや通貨制度の最終段階、すなわち、崩壊や死を表す状況」とも理解できるのである。

2024.3.21

植田日銀総裁のホンネとタテマエ

3月19日に開催された「日銀の金融政策決定会合」については、「事前にいろいろな情報がマスコミにリークされた」というような状況のために、「会合を開く意味があったのか?」という疑問を抱かされたが、同時に感じたことは、「植田日銀総裁のホンネとタテマエが認識できたのではないか?」ということでもあった。つまり、「ホンネ」については、事前にマスコミにリークしながら、「タテマエ」については、自分の言葉で記者会見において述べる方法が取られていた可能性のことである。

具体的には、「賃金と物価の好循環を確認し、2%の物価安定の目標が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況に至ったと判断した。これまでのイールドカーブ・コントロール、およびマイナス金利政策といった、大規模な金融緩和策は、その役割を果たしたと考えている」という「タテマエ」のコメントのとおりに、「マイナス金利」は解除したものの、一方で、「実質上のゼロ金利政策の継続」という「ホンネ」については、変更がなかった状況のことである。

つまり、「できるだけ超低金利政策を継続しながら、日銀の資金繰り問題に対処しようとする意志」が見えながらも、「表面上の利上げ」を実施した状況とも思われるが、この結果として発生したのが、「急激な円安」だったことも理解できるのである。別の言葉では、投資家の理解したことが、「植田日銀総裁が、依然として、時間稼ぎを目論んでいる可能性」であり、また、今後の展開として予想していることが、「為替防衛のための本格的な利上げ」とも思われるのである。

より詳しく申し上げると、「国家の体力」を測るバロメーターは「金利」と「為替」でもあるが、日本の場合には、「GDPの250%以上もの国家債務残高」を抱えているために、「利上げ」が、即座に、「国家の財政破綻」に繋がる可能性が、海外で危惧されているのである。つまり、「短期借り、長期貸し」の代表例の一つが、現在の「日銀」である事実が、海外で熟知されているものの、日本では、いまだに、「日銀の金融政策は正当で有効である」というような理解がなされている状況のことである。

そのために、今後の注目点は、前述のとおりに、「円安が、今後、どれほどのスピードで進展するのか?」であり、また、最も危惧すべき展開は、「日本」のみならず、「世界各国」で、「国債の入札」が不調に終わる事態、すなわち、「1991年のソ連」と同様に、「国債の買い手」が消滅し、急速に、「財政ファイナンス」が実施される可能性である。

2024.3.23

異次元のインフレ政策

現在、日銀のバランスシート残高が急拡大中の状況となっており、具体的には、3月20日の時点で、「総資産が、史上最高額の約771兆円」というように、「米国のQE(量的縮小)」とは反対の動きを見せ始めているのである。そして、このことは、「植田日銀総裁の覚悟」の現れのようにも感じられるが、実際には、「バーナンキ元FRB議長」が指摘したとおりに、「25年ほど前から始まった金融政策における日銀の指導的な役割」が、今回も継続される可能性のことである。

より詳しく申し上げると、「ゼロ金利」や「量的金融緩和」、あるいは「異次元の金融緩和」などと呼ばれる金融政策が、すべて、日銀から始まったものであり、また、今後も、この傾向が継続するものと思われるが、今回は、「異次元のインフレ政策」ともいえる「実質的なCBDC(中央銀行デジタル通貨)の発行」が、日本から始まった可能性である。

つまり、「中央銀行の役割」としては、「最後の貸し手」と呼ばれるように、「国家が資金繰りに窮した場合に、財政ファイナンスが実施される状況」が想定されるが、今回は、古典的な「紙幣の増刷」ではなく、「CBDC(中央銀行デジタル通貨)の大量発行」により、「国家の資金繰り」のみならず、「紙幣がコンピューターネットワークの中を流れることができない問題」を解決しようとする目論見のことである。

より具体的には、「日銀当座預金」と「貸付金」の両建てで、「バランスシートの残高大膨張」を図る方法とも思われるが、この結果として予想される現象は、「戦後の日本」と同様に、「すべての不良債権を日銀が抱えることにより、国家財政を安定させる事態」とも考えられるのである。別の言葉では、「究極的な国家債務の解消法」ともいえるが、この点については、「江戸時代の貨幣改悪」などと同様に、「国民が気づいたときに、大々的な換物運動が始まる可能性」も危惧されるのである。

つまり、「貨幣価値の急減」に気づいた人から、慌てて、「実物資産を購入する動き」が始まる可能性であり、この結果として予想される展開は、「世界的なハイパーインフレの発生」ともいえるのである。具体的には、「何でもバブルの最終章」という言葉が表すように、「大量に創られ、現存する世界のマネーが、一挙に、小さな実物資産に殺到する動き」のことでもあるが、実際には、すでに「貴金属や穀物などの市場」などで始まった「実物資産の奪い合い」、すなわち、「できるだけ速く現物を獲得しようとする動き」が、今後、いろいろな商品に伝播する可能性のことである。