本間宗究(本間裕)のコラム

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2021.11.3

現代のミダス・タッチ

ギリシャ神話に登場する「ミダス王」は、「ワインの神のバッカスを助けたことにより、触れるものが全て黄金に変わる能力を授けられた」と伝えられているが、ご存じのとおりに、この神話には悲しい結果が待っており、実際には、「食べ物や飲み物までもが黄金に変わり、最後には、最愛の娘だけではなく、身投げしようとした川の水までもが黄金に変化した」とも述べられているのである。

つまり、「どれほど多くの富や黄金を持っていても、決して、本当の幸せを得ることができない」ということが、この神話が示唆することとも思われるが、一方で、現在の生活を反省すると、「現代版のミダス・タッチ」とでも呼ぶべき状態が発生しているようにも感じている。具体的には、「デジタル・タッチ」とでも呼ぶべき状況、すなわち、「DX革命」という名のもとに、「全てをデジタル化すべきである」という認識のことだが、実際には、「デジタル通貨が流入した商品の価格が急騰した状況」のことである。

より詳しく申し上げると、「2008年前後のGFC(金融大混乱)」までに発生した状況としては、「デリバティブの大膨張により、金融商品とデジタル通貨が、世界的に大増殖した」という状況だったのである。しかし、その後は、「デリバティブの実質的な崩壊」と「デジタル通貨の活用により、デリバティブのバブル崩壊を隠そうとする動き」が混在した展開だったものと想定されるのである。

その結果として、「金融のメルトダウン」が発生し、実際には、「デリバティブから流れ始めたデジタル通貨が、金融の逆ピラミッドの中で、さまざまなバブルを発生させた状況」となったのである。具体的には、「国債や仮想通貨、あるいは、GAFAなどの株式」などのことだが、現在の問題点としては、「大量に存在するデジタル通貨が、仮想現実の世界からリアル経済へ流れ始めた状況」とも言えるのである。

つまり、金額的、かつ、数量的に、きわめて小さな「実物商品」へ、大量の資金が流れ始めた結果として、「供給制約」や「ボトルネック」の現象が始まったわけだが、この時に注意すべき点は、「デジタル通貨への信頼感」が「ペーパーマネーへの不信感」に、瞬間的に転換する可能性である。別の言葉では、「紙幣の大増刷が始まるとともに、世界中の人々が、一斉に、換物運動に走り始める可能性」のことでもあるが、このことは、「デジタル通貨を絶対視した人々が、今まで、心や感情などを切り捨ててきたことに気づかされる過程」とも言えるようである。