本間宗究(本間裕)のコラム

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2022.11.24

デジタル円の盲点

最近、「BIS(国際決済銀行)」を中心にして、各国で、「中央銀行デジタル通貨(CBDC)」の研究や実験が盛んに行われているが、この理由としては、「中央銀行のバランスシートを、どのようにして再膨張させるのか?」の模索が指摘できるものと考えている。つまり、現在は、「量的緩和(QE)」から「量的縮小(QT)」への移行期と報道されているが、実際には、「資金繰りに窮した中央銀行を救済するために、日銀券などの紙幣ではなく、デジタル円などの中央銀行デジタル通貨の発行」が目論まれているのである。

より具体的には、「最後の手段」とも言える「紙幣の大増刷」に関して、「紙幣がコンピューターネットワークの中を流れることができず、金融界の白血病とでも呼ぶべき大問題を引き起こす可能性」が危惧されているのである。そのために、「日銀券などの紙幣」ではなく、「デジタル円などのCBDCの発行」が模索されるとともに、現在、「この方法は、理論的に、実現可能な状況ではないか?」と理解されているのである。

つまり、「日銀のバランスシート」を例にとると、「デジタル円を発行し、500兆円余りの当座預金や政府預金を返済する方法」により、「日銀が赤字に陥り、資本注入が実施される可能性」が消滅する状況も想定されるのである。そして、世界各国の中央銀行が、一斉に、この方法を取ることにより、「金融システム崩壊の問題」が解消される可能性も考えられるが、この時の問題点は、やはり、「通貨の供給量を、どのように制限するのか?」、あるいは、「国民の通貨への信用を、どのようにして維持するのか?」が挙げられるのである。

別の言葉では、「過去20年余りの期間」は、「デリバティブの大膨張が創り出した、大量のデジタル通貨の存在」により、「実物資産を基本とする実体経済」と「デジタル通貨を基本とする仮想現実的なマネー経済」との間で、「資金移動の制限」が可能な状況だったのである。しかし、今後は、「世界各国が、デジタル通貨の発行により、無制限の資本供給に踏み切る可能性」が危惧される結果として、「通貨への信用」が破壊されるとともに、「大量の資金が、一斉に、有限の実物資産へ流れ始める可能性」も憂慮されるのである。

つまり、「大量のCBDC」という「政府通貨」の存在と、「量的に制限された実物資産」の関係性において、「通貨価値の下落」、すなわち、「実物資産価格の急騰」が発生する展開が想定されるのである。別の言葉では、「触ったものが、すべて金(ゴールド)に変わったミダス王」のように、「大量のデジタル通貨(お金)が存在しながらも、一方で、生活のための食料などが手に入らない状況」のことである。