本間宗究(本間裕)のコラム

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2022.5.3

インフレのコスト

5月3日の日経新聞に掲載された「英国エコノミスト誌におけるインフレコストの議論」については、大きな驚きと失望感を味わったが、その理由としては、「第二次世界大戦時の日本のように、御用学者的な意見が述べられるだけで、現状認識が欠落している点」が挙げられるものと考えている。より具体的には、「過去30年間、あるいは、50年間を振り返ると、インフレのコストは小さいものであり、もっぱら心理的なものにすぎなかった」と説明されている点である。

つまり、「1971年のニクソンショック以降、どのような変化が、世界の金融市場で発生したのか?」、あるいは、「なぜ、過去20年間余りの期間、先進各国で超低金利状態が維持され、マイナス金利が発生したのか?」などが無視されるとともに、「現在のインフレは、それほど深刻ではなく、今後も、問題はないだろう」というような「安易な結論」が導かれている状況のことである。

別の言葉では、「イギリスの経済学」そのものが、かつての「大日本帝国」のように、「精神論だけで、窮状を切り抜けようとする態度」に走っているようにも感じられたが、本来、「西洋の学問」は、「具体例を徹底的に検証し、ゆるぎない理論の構築を図る」ということが基本的な態度だったものと考えている。つまり、「商品と通貨との関係性」について、「過去100年間に、どのような変化が発生したのか?」を研究しながら、「現在、どのような状況になっているのか?」を、深く分析することである。

そして、このような態度から導かれる結論は、「これから予想されるインフレのコスト」、すなわち、「物価上昇の悪影響」は、「前代未聞の規模」になるというものであり、この理由としては、「大量に創り出されたデジタル通貨が、今後、紙幣の形に変化し、実物資産に流れ出す可能性」が指摘できるのである。つまり、「インフレ」とは、「通貨価値の下落」を意味しており、実際には、「現在の通貨で、どれほどの商品を購入できるのか?」が基本的な尺度とも言えるわけである。

しかし、過去50年間は、「デリバティブを中心にした金融商品」に資金が流れることにより、我々の生活に、インフレの悪影響が、ほとんど存在しなかった状況だったことも見て取れるのである。そして、今後は、反対に、今までの「ツケ」を払う段階、すなわち、予想もできないほどの「インフレの大津波」に見舞われる状況を想定しているが、現在では、すでに、「大津波の第三波」に襲われている段階のようにも感じている。