本間宗究(本間裕)のコラム

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2021.6.10

最弱通貨に転換し始めた日本円

現在、「日本の円が、先進国で最弱の通貨に転換を始めている」という報道が出始めているが、このことも、「デリバティブの時限爆弾が連鎖破裂を始めた証拠の一つ」だと考えている。つまり、「為替の理論」については、1995年前後に、「信用乗数の比較により、ほとんど説明がついた」という状況だったが、この理論が有効性を失った原因が、「2002年前後から始まったデリバティブの大膨張」だったのである。

より具体的には、「メガバンクが、オフバランス(簿外取引)で、デリバティブを大膨張させた」という状況であり、その結果として、本当の意味での「信用乗数」、すなわち、「マネーストック÷ベースマネー」の算出が難しくなったのである。別の言葉では、「大量のデジタル通貨を獲得したメガバンクが、金利のみならず、為替や株式などの市場をコントロールした」という展開となり、その結果として、「信用乗数の比較では、正確な為替予測が難しくなった」という状況のことである。

しかし、今回の「日本の円が最弱通貨に転換を始めた」というニュースには、ある種の「驚き」を覚えたが、この理由としては、現在、「日本の信用乗数が約1.7倍」というように、「ソ連崩壊前の状態」に近づいている事実が指摘できるからである。より具体的には、「1990年前後の信用乗数が約13倍」という状況だったものが、現在では、「ハイパーインフレの発生」を意味する「信用乗数の1倍」に近づいているのである。

そして、今後の展開として想定されることは、「国家の体力」を象徴する「為替」と「金利」において「弱体化が表面化する状況」であり、実際には、「通貨安が、物価上昇のみならず、金利の上昇圧力を生み出す可能性」である。つまり、「信用乗数の低下」が意味することは、「民間金融機関の信用力低下」であり、また、「中央銀行の紙幣増刷に頼らざるを得ない状況」とも言えるのである。

より具体的には、「1991年のソ連」のみならず、「1945年の日本」、あるいは、「1923年のドイツ」と同様に、「紙幣の大増刷でしか、市場への資金供給ができない状態」のことである。そのために、今後の注目点は、現在の「円安」が進展し、その結果として、「通貨防衛のための利上げ」が実施される可能性でもあるが、この時に表面化する現象は、やはり、「デリバティブのバブル崩壊」であり、また、「超低金利の蓋によって隠されていた国家の財政問題」、すなわち、「金融界のブラックホール」に隠されていた「本当のインフレ」が表面化する事態だと考えている。