本間宗究(本間裕)のコラム

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2018.9.11

リーマン危機から10年

現在、いろいろな識者が、「リーマン危機から10年後」についての感想を述べられているが、私自身が、最も共感を覚えたのは、「前ECB総裁のトリシェ氏」の意見だった。具体的には、「10年前の状況」から始まり、「過去10年間に発生した変化」、そして、「現在が、当時よりも危機的な状況にある」という意見などのことだが、唯一の相違点は、「アービング・フィッシャーの負債デフレ論の警告を忘れるな」というコメントだった。

つまり、「過剰債務が大不況に繋がる道筋」を示したのが「債務デフレ論」であり、「トリシェ氏」は、「過剰債務問題が、10年前のリーマン危機を発生させ、現在でも、依然として存在する」という理解をされているのである。しかし、私自身は、「10年前の過剰債務」について、別の見方をしているが、実際には、「一部のメガバンクが、オフバランス(簿外取引)で行ったデリバティブ(金融派生商品)」が原因であり、また、「2008年前後にデリバティブの残高がピークを付け、減少を始めたことにより、リーマン・ショックを発生させた」ものと考えている。

しかも、「簿外取引の金融商品」という性格上、「政府とメガバンクは、金融混乱を抑えるために、ありとあらゆる方法を取らざるを得なかった」という状況だったのである。具体的には、「先進各国中央銀行のバランスシート」を大膨張させ、「過剰債務の問題点」を隠した可能性のことだが、今後の注目点は、「バランスシートの非対称性により、資産価格が下落した時に不良債権が発生する事態」が指摘できるようである。

つまり、「中央銀行」においても、「民間銀行」と同様に、「債務と資産が伸び続けている間は問題が発生しないが、残高がピークを付け、減少を始めた時に問題が発覚する」という構図のことである。そして、現在、最も注目すべき点は、「10年前との違い」であり、実際には、「出口戦略の実施により、今後、中央銀行のバランスシートに、どのような変化が発生するのか?」ということである。

より具体的に申し上げると、「民間銀行の過剰債務、あるいは、バランスシートの大膨張」については、その後、「不良債権の発生」などにより、「デフレ的な様相」を呈する可能性も存在するが、「中央銀行の過剰債務やバランスシートの大膨張」については、「紙幣の増刷により、過剰債務を解消する手段」が残されているという点である。そのために、今後、憂慮すべき事態は、「債務デフレ論」ではなく、「債務インフレ論」だと考えているが、この点については、「国債価格」が暴落した時に、答えが出るものと考えている。